コミックス感想:ヒーローの知られざる闇を描いた問題作『Identity Crisis』

Identity Crisisの基本情報

『Identity Crisis』は2004年に連載された大型イベントです。
小説家のブラッド・メルツァーが脚本を担当しており、他のコミックスと比べて細やかな人間関係が描かれています。

過激な暴行シーンやヒーローたちの汚れた過去、救いのないラストが物議をかもした問題作とされていますが、高い評価を得ていますし後の作品に影響を及ぼす重要作品でもあります。

ざっくりあらすじ

体を自由自在に伸ばすことができるヒーロー・エロンゲイテッドマンの妻スー・ディブニーが自宅において焼死体で発見された。
スーは一般人ながらジャスティスリーグのために働き、名誉メンバーに選ばれるほどの人物だった。
ヒーローたちのひどく衝撃を受け、犯人探しに躍起となる。

現場の状況を基に該当する能力を持つヴィラン達を捜索に行くヒーロー達。
しかし、グリーンアローやザターナ、妻を亡くしたエロンゲイテッドマンなどの一部のヒーローは密かに集まり、現場の手がかりからは関与の可能性が薄いドクターライトが犯人だと名指しし捜索を始める。

一部のヒーローはなぜドクターライトを犯人だと確信したのか。
その理由は、彼らヒーローたちの汚れた過去が強く関係していた。

犯人の捜索が続く中、特殊なスーツとベルトで体を縮小できるヒーロー・アトムの元妻ジーン・ローリングが謎の犯人に襲われる。

犯人は本当にドクターライトなのか。
ヒーローたちの汚れた過去とは何か。

感想(ネタバレあり)

ヒーロー作品には暗黙の了解があるように思っておりました。
ヒーローの家族に手を出さない、出したとしても助かる、殴る蹴るはしても性的暴力は行わないetc
ヴィランの矜持みたいなものがあると思っていたのですが、そうしたある種のタブーを解禁した作品と感じました。

やむを得なかったとはいえ、ヒーローがヴィランに対して思想改造まで行っていた、しかも正義感が一際強いバットマンの記憶まで消してしまうというのは衝撃的な出来事です。

しかしながら、本作はただ衝撃的な出来事を並べただけでなく、ミステリ味の強いストーリーラインが魅力的です。
スーの死因の隠蔽、次々と増える被害者などまさにミステリです。
真相の判明はやや唐突があるものの、バットマンがしきりにつぶやく「利益を得るものは誰か」という言葉が結末ときれいにマッチしているかと思います。

もう一つ特筆すべきは、デスストロークの描写です。
リーグのヒーロー達とデスストロークが戦う場面がありますが、デスストロークの超人的な格闘能力と思考能力が一コマずつ丹念に描かれています。小説家らしい細やかな描写だと思います。
デスストロークが強いのは周知の事実ではありますが、改めて超人的であることが理解させられました。

後の作品でもしばしば言及される作品ですし、出来も素晴らしいので必読と言えるでしょう。